プロが教える機材の選び方その1 木工旋盤編

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まいどです。

 

突然ですが、ウッドターニングを続けて行くにあたってかなり多くの人が

「いろんな商品が売られているけど、結局どれを買ったらいいの!?」

という悩みに突き当たる事になるかと思います。



 

世の中には本当に数多くの商品が販売されており、インターネットを通じて海外からの購入も容易になった現在、選択肢が多すぎて決められないという事態は往々にして起こり得ます。
事実、当スタジオにもこれまで多くの相談が寄せられており、アドバイスをさせて頂いてきました。

一式揃えるとしたら決して安い買い物ではないですから、なるべく失敗はしたくないですよね。
そこで今回から数回に渡って、お悩みの多い機材選びのポイントについてプロの視点から解説していきます。

では今回はまず、メインとなる木工旋盤本体の選び方について。

 

目次

1.作りたいものは何?

趣味であっても仕事としてでも、まずは今何を作りたいかということから考えるといいでしょう。
食器?ペン?家具の脚?それとも?

ここから必要な木工旋盤のサイズを検討します。

うつわものがメインであれば最大直径がなるべく大きく、パワフルなモーターを搭載したものが有利になる場合が多いですし、ほとんどペン専用だと考えるのであれば大きな旋盤は必要ないでしょう。むしろより小型で精度の良いものが適しています。
家具の脚やバット、ビリヤードのキューなど棒ものメインであれば直径よりも芯間距離(長さ)が必要になるのでベッドの延長が可能かどうかがポイントになってきます。

一例として、卓上型(英語表記だとmini latheやmidi lathe)と呼ばれる旋盤は回転直径が30cm、芯間距離40~50cm(延長可能な場合は100cm前後にできるものが多い)までのものがほとんどで、それ以上になると中・大型旋盤と呼ばれる機種になってきます。

参考として下記に現在日本でも入手できる主だった木工旋盤を列記します。

 

<卓上~小型機>

Woodfast M320(RIKON, Record power) 入手価格9~11万円
必要な機能を備えながら、低価格を実現した卓上機のひとつ。この価格帯の製品が世界各地でのウッドターニング普及を強く後押しした。
趣味やフルタイムではない仕事での使用なら、必要十分な性能。

Nova Comet Ⅱ 入手価格7~8万円
チャックも有名なNovaの小型機Cometの後継。ハンドホイール側に装着する専用グラインダーキットが非常に独創的かつ合理的。
コストパフォーマンスにも優れる。やや軽いのがメリットでもあり弱点でもある。

Delta 46-460 入手価格8~9万円
2014年の小型機評価No.1に輝いたDeltaの虎の子。堅牢な構造と1hpモーターで、安定感とトルク感は抜群。
ベルト部のプラスチックカバーが割れやすいのが玉に瑕か。

Jet 1015, 1221VS 入手価格7~12万円
2014年頃からJetが世界中で販売している小型機の雄。確かな造りでいわゆる”Midi”旋盤のポジションを確たるものにした。

Vicmarc VL150 入手価格15~35万円
オーストラリアの世界的木工旋盤メーカーVicmarc社の最小型モデル。小型ながらも、お家芸のテーパーローラーベアリングを用いた主軸は他の追随を許さないほどのずば抜けた剛性を誇る。一生モノと呼べる機械。
モーターとインバーターを除いた躯体のみでも購入できるため、それらを自前で調達することで輸送コストを抑えながら動力部の仕様を自分で決められるというメリットがある。

Oneway 1224 入手価格30~40万円
カナダの老舗がリリースする高級小型旋盤。オーバースペックなほどしっかりした台も付いているので快適で安定した作業が可能。

 

 

 

<中~大型機>

Jet 1640, 1840
洗練されたデザインに、スライド&スウィベルヘッドストックやテールストックスイングアウェーなどの流行りの機能を詰め込んだJetの新型。
1221VSと同時期にリリースされており、マーケットに対するJetの答えともいえるラインナップとなっている。

Laguna Revo1836, Revo2436 入手価格35~50万円
各種木工機械を販売するLagunaが提案している”REVO”シリーズ。この手の機種としては珍しくベッドは鋼材を溶接して製作されている。

Woodfast M910 入手価格30~40万円
古き良き設計のスタンダードな大型旋盤。2×2の4列ベアリングで支えられる主軸は高い剛性を誇り、比較的コストパフォーマンスが高いのも特徴。

Powermatic 3520B, 4224B 入手価格55~110万円
ハイエンドな製品を手掛ける木工機械メーカーとして知られるPowermaticのフラッグシップ機。アメリカでは「木工旋盤のキャデラック」と称されるマスタードイエローのニクい奴。スライド式ヘッドストックは様々なポジションでのターニングを可能にし、作風を制限されにくいため作家に人気が高い。

Vicmarc VL200, VL240, VL300 入手価格50~90万円
Vicmarcの旋盤に共通して採用されているテーパーローラーベアリングは、自動車の車軸などにも使われるなど極めて頑丈で広範囲の荷重を受けられる構造となっている。同社の大型機はこの特徴を存分に活かしたパワフルでヘビーユース、いかにもプロ志向な仕上がりで世界中のターナーから厚い信頼を得ている。特にVL240は首振り式ヘッドストック機として注目を集めている。

Oneway 16~series, 20~series, 24~series 入手価格50~90万円
元来旋盤の躯体は鋳鉄で製造されることがほとんどだったが、鋼材を優れた溶接技術で組み上げたデザインで業界に旋風を巻き起こしたカナダのOneway。より自由度を増した設計思想と高い構造強度で世界中のハイエンドユーザーから支持されている。

Robust Sweet16, American beauty25 入手価格80~100万円
比較的新興メーカーながら、世界中のターニングシーンを席巻しつつあるRobust。ステンレスのベッドというイノヴェーションで、生木を扱うターナーにとっては垂涎の品。(中島も2011年からAB25の愛用者)細部まで考え抜かれた隙のない設計と仕上がりで、メーカーの熱意と愛が感じられる素晴らしい木工旋盤。

Stubby S500, S750, S1000 入手価格50~80万円
John Jordanをはじめとして世界中のプロターナーに愛されながらも、製造元であるオメガ社の解散により長らく販売中止となっていたオーストラリアの名機。唯一無二のスライド&スイングベッド構造は旋回可能直径と芯間距離を同時に可変させるというウルトラCを可能にしている。2017年よりA.M.Pが製造を引継ぎ、販売が再開された。

 

 

<座位旋盤>(車いすでも作業ができるように、ベッドが作業者側に傾斜する仕組みを取り入れた旋盤)

Oneway 1236SD

Vicmarc VL200 sit down

Robust Scout+Universal stand for bench lathe(傾斜可能な汎用スタンド)

 

 

<日本への販売対応未確認の参考商品>

・Steinert  Piccolo, Alpha, Beta, Gamma, Maximo, VB36 入手価格30~170万円
ドイツの質実剛健さを体現するかのような特徴ある設計で知られたSteinertの各種オリジナル機に加え、数年前にVB36というボウルターニング専用機の権利も取得し製造・販売している。

・Hapfo Performer400-FU 入手価格100万円~
ドイツで存在感を上げている若手ターナー、Ginger woodことFranz Keilhofer氏の愛機。シンプルな見た目だが随所にドイツクラフトマン(マイスター?)魂の溢れる一台。ベッド上で直径800mmまで旋回可能で、市販されているものとしては最上位クラス。

・Magma Titan300, Titan400 入手価格100万円~
オーストリアのブランドMagmaから販売されている新型。ごくわずかな期間だけ日本でも販売されていた。外観からだけでも伝わる仕上げの良さと優れた設計。

・Serious toolworks SL2542 入手価格100万円~
独自路線を突き進む異色のメーカー、Serious toolworksが手がける超重量級旋盤。なんと700kgを超える総重量で、大きくバランスを外したワークでも難なくブン回す様は圧巻の一言。各部の設計も強くプロ仕様を意識したもので、重量≒性能ともいえる木工旋盤においては最高峰ともいえるスペックとなっている。

 

※1.入手価格は2017年7月現在の為替と送料の概算から想定したものであり、時期や購入先によって変動する可能性があります。
※2.コメントや評価はあくまで主観であり、性能や使用感を保証するものではありません。

 

このような候補の中から、自分に適したものを絞り込んでいくことになります。

それでは2に進みましょう。

 

 

2.設置場所と電源は?

旋盤を据える場所は、なるべく平坦で強度のある床面が望ましいです。
特に重量のある大型機の場合、床がフニャフニャだとせっかくの機体性能も満足に発揮できません。

理想はレベリング処理されたコンクリ床ですが、根太のピッチを細かくし、なるべく厚板張りにした床でもいいでしょう。

また搬入(搬出)についても検討する必要があります。
卓上旋盤であればそれほど問題にはなりませんが、200kgを超える重量になってくると搬入経路上の小さな段差でも問題になってくる可能性があります。作業補助を頼める人数、フォークリフトやハンドリフトなどの有無も含めて計画を立てましょう。

設置後のレイアウト変更などの可能性を考えると、こういったハンドリフトがあると便利ですね。

「ハンドリフト」の画像検索結果

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてもう一つが機械の電源についてですが、皆さんは単相電源と三相電源という言葉をご存知でしょうか。

交流電源には、一般家庭に広く用いられている単相電源と工場など大きな動力を連続的に必要とする場合に向いた三相電源とがあります。

 

現在販売されているほとんどの木工旋盤は単相電源の100V、200Vいずれかで動作する仕様となっていますが、中には三相電源専用機も存在するため、選定の際には注意をしてください。

というのもこの二つは波形や効率が違うだけでなく、契約そのものが異なります。
一般家庭に三相電源を引き込んで使用するのは工事費用やランニングコストの面からもややハードルが高いです。

このためもし三相専用機の購入を検討したい場合、インバーターを利用するのがお勧めです。
インバーターとは単相電源を三相に変換し、さらにモーターの挙動を細かく制御できる装置のことです。
これを利用することで三相専用モーターを単相電源で可変速運転することが出来ます。
(余談ですが、三相専用グラインダーをインバーター駆動させると非常に便利です。)

 

ただし電源・インバーター・モーター間の接続作業には原則として電気工事士資格が必要となりますので、単相200Vの屋内配線を新設する場合も含めて資格を持った業者に依頼するのがいいでしょう。

それでは3へ続きます。

 

 

3.予算 or 求められる生産性は?

ここまでの流れで候補が上がったら、次に

①趣味であれば予算(仕事の場合でも、試作専用などほとんど生産性を問わない場合はこちら)

②仕事で使うのなら生産性

といった面で絞り込むのがいいのではないかと思います。

 

①について予算が決まっている場合、このあと解説する刃物やグラインダーなど必須になる周辺機器も含めて考える必要があります。

先に参考として、刃物が最低限のもの一式で約2~5万円ほど、グラインダーと治具が3万円~、チャックが2万円~です。当然選択肢によって幅はありますが、平均的なところで7~9万円ほどでしょうか。

つまりこれらの必須周辺機器との予算配分のバランスになるわけですが、基本的に旋盤本体を優先してください。

※ちなみに僕なら次点としてチャックを重視します。刃物は研ぎ次第で結構何とかなりますが、チャックの品質は努力でカバーしがたい場合が多いからです。

 

②は生産性の面からの絞り込みですが、ここで重要なのが

仕事としてターニングを考える場合「旋盤の価格はコストではない」

ということなのです。

 

初期費用として考えるとどうしても安い機械を選びたくなってしまうものですが、ここでいう本当のコストとは「安い旋盤を使うことで生じる時間と人件費のロス」です。

趣味であればたっぷりと時間をかけて、その過程も楽しみながら製作するのはとても価値のあることだと思います。
また生産性を殆ど問われない試作だけでの使用であればそれほど問題はないでしょう。

 

しかしプロとしてターニングを仕事にしようと思うのなら、特にうつわものをやるのであれば一流の機械を使って下さい。
旋盤は材料を回転させて加工するという性質上、機械重量が生産効率に大きく影響します。
軽い機体でバランスのとれていない材料を旋回させると、振動がひどく回転速度(≒作業効率)を極端に落とさざるを得ません。

またひと削りあたりの仕事量を増やそうと思えばそれに応じてパワーに余裕のあるモーターが必要になります。
余裕のないギリギリのスペックで、何度も回転を止めそうになりながら加工を続けると均一な仕上がりが得られないばかりか、モーターの制御回路に過大な負荷がかかり早期の故障の原因にもなります。

※ただし両センターで仕事をするセンターワーク専門であれば、それほど機械のスペックは必要ないかと思います。

 

さらにもう一つ、プロを志す者が安い旋盤を買うべきでない理由があります。

それは「性能の低い機械に作風を制限される」ということが起きてしまうからです。

単純にサイズの制限を受けるという以上に、軸やベッドなど各所の剛性不足、トルクの不足、回転数の不足、こういった要因が積み重なると、確実にあなたの作品そのものに影響を及ぼします。どうしても機械の弱点を回避するような形状に寄って行ってしまうんです。

ウッドターニングにおいて、安定した高速回転を得るということはそれだけ重要なことなんですね。

 

現実として僕の周囲でも、「思い切って高価な旋盤に買い替えたら、世界が変わった」という声を度々耳にします。
そうなんです。世界が変わっちゃうんです。大変なことなんです。

だからどうかプロを名乗るなら消費と投資の違いを明確に認識して、「今お金がない」という理由で安易に安物買いをしないで頂きたいと思います。

 

とはいえ、数十万を超える買い物となるとなかなか決心がつかないことが多いのも事実。

当スタジオではそういった機材選定に関するお悩みへのアドバイスもお受けしています。

直接の取り扱い品であるなしに関わらず、下記フォーム・お電話にてぜひ一度ご相談ください。
機材オタクとして定評のある中島が誠意をもってご対応させて頂きます。

 

TEL:072-331-6077 (9:00-18:00)

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さて、ここまでいかがでしたでしょうか。
この記事があなたの相棒となる旋盤選びの参考になれば幸いです。

そして次回は「チャック編」です。お楽しみに。



 

 

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“プロが教える機材の選び方その1 木工旋盤編” への 1 件のフィードバック

  1. はじめまして。
    田原と申します。

    今回、アウトドア用品を自作したいと思い旋盤を探しています。
    作るのは小物と椅子やテーブルなどです。
    予算は30万円まで、なのですが何が良いのかご教授お願いします。

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